離れて暮らす親の「いつもと違う買い物や契約」 判断力の変化に気づくサインと家族の対応
高齢の親の「いつもと違う」買い物や契約に気づいたら
離れて暮らす高齢の親御さんの様子は、電話やオンライン通話、短い帰省などで確認されていることと思います。会話の中で、「最近、変なものを買ってしまった」「よく分からない契約をしてしまって困っている」といった話を聞いたり、家に届いた郵送物から不審な契約の痕跡を見つけたりして、「親の判断力が少し変わってきているのでは?」と、漠然とした不安を感じることはありませんか。
高齢期における判断力の変化は、加齢による自然な衰えだけでなく、認知機能の低下や、場合によってはメンタルヘルスの不調が影響している可能性も考えられます。こうした変化に早期に気づき、適切に対応することは、親御さんの安心安全な生活を守る上で非常に重要です。
この記事では、高齢の親御さんの判断力の変化に気づくための具体的なサイン、その背景にある可能性、そして家族としてどのように声かけ、対応したら良いかについてご紹介します。
離れて暮らす家族が気づける「判断力の変化」のサイン
離れて暮らしている場合、親御さんの日常的な買い物や契約の様子を直接見ることは難しいかもしれません。しかし、以下のような変化が間接的なサインとして現れることがあります。
電話やオンラインでの会話から気づくサイン
- 同じ商品の購入や重複した契約の話が増える:以前買ったものを忘れて再度注文してしまったり、必要のないサービスに複数加入してしまったりする話を聞く。
- 購入や契約の失敗談、後悔の話が多い:よく考えずに買ってしまい不要になったもの、解約方法が分からず困っている契約などの話が増える。
- 詐欺や悪質商法に関する話題への反応:注意喚起をしても「自分は大丈夫」と聞く耳を持たなかったり、逆に過剰に恐れたりする。具体的な被害に遭ったことを隠している様子がある。
- 複雑な内容の説明を理解しづらそうにする:新しいサービスや手続きについて説明しても、すぐに理解できなかったり、話をそらしたりする。
- お金の話を曖躇したり、曖昧にしたりする:具体的な出費や支払いについて聞くと、話を濁したり、覚えていないと答えたりする。
短い帰省や郵送物から気づくサイン
- 不要なものや大量の買いだめ:すぐに消費できない食品や日用品を大量に買っていたり、以前は興味を示さなかったような高額な商品を衝動的に買っていたりする。
- よく分からない契約に関する書類:身に覚えのない請求書、頻繁に届くダイレクトメール、不審な契約書類(電気、ガス、通信、訪問販売など)が見つかる。
- お金の管理に関する混乱:通帳記入をしていなかったり、公共料金やクレジットカードの請求書の支払いが滞っていたりする痕跡が見られる。
- 部屋に物が溢れている:整理整頓ができず、不要なものや購入品で部屋が cluttered な状態になっている。
- 訪問販売や電話勧誘の記録:留守番電話に不審なメッセージが入っていたり、訪問販売業者が出入りしている形跡があったりする。
これらのサインは、単なる加齢によるものだけでなく、認知機能の低下や、うつ病などのメンタルヘルスの不調が影響している可能性も考えられます。不安や意欲の低下から、複雑な判断を避けるようになったり、衝動的な行動をとってしまったりすることがあるためです。
判断力の変化の背景にある可能性
高齢期の判断力の変化には、いくつかの要因が考えられます。
- 加齢による自然な変化: 集中力や新しい情報を処理する能力が若い頃より低下することは自然なことです。
- 認知機能の低下: アルツハイマー型認知症など、認知症の初期症状として判断力や理解力の低下が現れることがあります。
- メンタルヘルスの不調: うつ病になると、思考力が低下したり、決断力が鈍ったり、物事への関心が薄れたりすることがあります。不安障害なども、過剰な心配から不合理な判断につながることがあります。
- 身体的な疾患: 脳梗塞の後遺症や甲状腺機能の異常、薬剤の副作用などが、一時的または継続的に判断力に影響を与えることがあります。
- 社会的孤立: 人との交流が減り、情報交換や相談の機会が失われることで、適切な判断が難しくなる場合があります。
特に注意が必要なのは、以前は問題なくできていたことが急にできなくなった場合や、複数のサインが同時に見られる場合です。
家族としてできる対応と声かけのヒント
親御さんの判断力の変化に気づいても、「どう声をかけたら良いか分からない」「波風を立てたくない」と悩む方も多いかもしれません。大切なのは、親御さんの尊厳を傷つけず、安心感を与えながら、状況を把握し、必要なサポートにつなげることです。
穏やかに状況を把握する
- 決めつけずに優しく話を聞く: 「最近、何か困っていることはない?」「気になることがあるんだけど、少し話を聞かせてもらえる?」など、心配している気持ちを伝えつつ、親御さんの話を傾聴します。
- 具体的な例を挙げて問いかける: 例えば、不審な請求書を見つけた場合、「この請求書のことなんだけど、もしかして何か困ったことになってないかな?」と具体的に触れ、状況を尋ねます。問い詰めるのではなく、「知りたい」「手助けしたい」という姿勢を示します。
- 日常会話の中でさりげなく: 電話で話す際に「最近、何か面白いもの買った?」「買い物で困ったことなかった?」など、軽い調子で尋ねてみるのも良いでしょう。
サポートの提案
- 具体的な困りごとへの手助けを提案: 例えば、支払いが滞っているようであれば「一緒に確認してみようか」「自動引き落としの手続きを手伝おうか」など、具体的な解決策を提案します。
- 情報提供や注意喚起: 詐欺や悪質商法の情報について、「こういう手口があるらしいから、お父さん/お母さんも気をつけてね」と、特定の状況ではなく一般的な情報として伝えるようにします。
- 一緒に考える姿勢を示す: 大きな買い物や契約を検討しているようであれば、「すぐに決めずに、一度家族にも相談してみてはどうかな」と一緒に考えることを提案します。
大切な視点
- 本人の意思を尊重する: サポートが必要だと感じても、本人の同意なしに一方的に介入することは避けるべきです。まずは本人の気持ちや考えを聞くことから始めます。
- すぐに解決しようと焦らない: 判断力の変化は、背景に複数の要因が絡んでいることがあります。一度に全てを解決しようとせず、時間をかけて丁寧に向き合う姿勢が大切です。
- 責めたり、子ども扱いしたりしない: 親御さんも、変化に戸惑っていたり、不安を感じていたりする可能性があります。「どうしてこんなものを買ったの!」などと感情的に責めるのではなく、共感的な態度で接します。
専門家への相談を検討するタイミングと相談先
親御さんの判断力の変化が、日常生活に支障をきたし始めている場合や、繰り返し詐欺の被害に遭いそうになるなど危険な状況が見られる場合は、専門家への相談を検討することが重要です。また、判断力の低下が他の認知機能の変化(物忘れ、時間の感覚のズレなど)や、意欲・感情の変化(ふさぎ込み、イライラなど)を伴う場合も、専門家の助言を求めるサインと言えます。
相談を検討するタイミングの例
- 同じような不要なものを繰り返し購入している
- 高額な商品を衝動的に購入し、経済的に困窮する兆候がある
- 悪質な訪問販売や電話勧誘の被害に繰り返し遭っている、あるいはその危険性が高い
- 大切な書類の管理ができなくなっている
- 以前は問題なくできていたお金の管理ができなくなっている
- 判断力の変化に加え、物忘れや感情の起伏が激しいなどの他の変化も見られる
- 本人が困っている様子だが、家族のサポートを受け入れない
主な相談先
- 地域包括支援センター: 高齢者の様々な相談に対応する地域の総合窓口です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが配置されており、親御さんの状況に応じた適切なサービスや相談先(医療機関、専門機関など)を紹介してくれます。まずはここから相談を始めるのがおすすめです。
- かかりつけ医: 親御さんの日頃の健康状態を把握しているかかりつけ医に相談してみることも有効です。身体的な問題が判断力に影響している可能性がないかを確認したり、必要に応じて専門医(精神科、心療内科、脳神経内科など)への紹介状を書いてもらえたりします。
- 精神科、心療内科: うつ病などのメンタルヘルスの不調が判断力に影響している可能性がある場合、精神科医や心療内科医の診察が有効です。
- 脳神経内科、物忘れ外来: 認知症が疑われる場合、これらの専門医療機関で精密な検査や診断を受けることができます。
- 消費生活センター: 悪質な商法や契約トラブルに関する相談に乗ってくれます。
- 成年後見制度: 判断能力が著しく低下している場合、財産管理や契約などを支援する成年後見制度の利用を検討することもできます。詳細については、地域包括支援センターや弁護士、司法書士に相談できます。
相談する際には、親御さんの具体的な状況(いつ頃から、どのような変化が見られるか、具体的なエピソードなど)を整理しておくと良いでしょう。
家族自身のケアも大切に
親御さんの変化に気づき、心配し、対応を考えることは、家族にとって精神的な負担となることもあります。遠方に住んでいる場合はなおさら、すぐに駆けつけられないもどかしさや、十分なサポートができないことへの罪悪感を感じることもあるかもしれません。
一人で抱え込まず、他の家族や親戚と状況を共有したり、地域包括支援センターの担当者などに話を聞いてもらったりすることも大切です。また、ご自身の仕事や家事、休息の時間も確保し、心身の健康を保つように心がけてください。「こころの晴れ間」も、皆さんの情報収集や気持ちの整理の一助となれば幸いです。
まとめ
離れて暮らす高齢の親御さんの買い物や契約における「いつもと違う」変化は、判断力の変化を示すサインであり、その背景には加齢だけでなく、認知機能の低下やメンタルヘルスの不調が隠れている可能性があります。
電話やオンラインでの会話、短い帰省、郵送物などを通して、日頃から親御さんの様子に関心を寄せ、「あれ?」と感じるサインを見逃さないことが大切です。変化に気づいたら、決めつけずに穏やかに話を聞き、親御さんの気持ちに寄り添いながら、具体的な困りごとへのサポートを提案してみてください。
変化が著しい場合や、安全が脅かされる可能性がある場合は、一人で抱え込まず、地域包括支援センターやかかりつけ医などの専門機関に相談することを検討しましょう。早期の気づきと適切な対応が、親御さんの安心できる生活と、ご家族の心の平穏につながります。焦らず、できることから一歩ずつ、親御さんと共に歩んでいきましょう。