離れて暮らす親の体調不良の訴えが増えたら?隠れた心のサインと家族ができること
離れて暮らす親の体調不良の訴え、その背景にあるものは
遠方に暮らす高齢の親から、電話やメッセージで以前よりも体調不良の訴えが増えたと感じることがあるかもしれません。「なんだか体がだるい」「食欲がない」「あちこちが痛む」といった言葉を聞くたびに、心配になる一方で、「また体調が悪いのか」「年のせいだろうか」と、どのように受け止めて良いか悩むこともあるでしょう。
もちろん、加齢に伴い体の機能が変化し、様々な不調を感じやすくなるのは自然なことです。しかし、これらの体調不良の訴えが、体の問題だけでなく、心の状態と深く関連しているケースも少なくありません。特に、孤独感や不安、抑うつといった心の状態が、身体症状として現れることは高齢者においてしばしば見られます。
このページでは、離れて暮らす親からの体調不良の訴えの中に隠されているかもしれない心のサインに気づくためのヒントと、家族としてどのように対応し、サポートできるのかについてお伝えします。
体調不良の訴えに隠されているかもしれない心のサイン
高齢者の体調不良の訴えの全てがメンタルヘルスの問題に起因するわけではありませんが、以下のような特徴が見られる場合、心の状態が影響している可能性を考慮することも大切です。
- 検査しても原因が特定できない身体症状: 病院で様々な検査を受けても、「特に異常はない」「加齢によるもの」と言われるような、明確な原因が見つからない身体的なつらさを繰り返し訴える場合です。頭痛、肩こり、腰痛、胃の不調、倦怠感などが挙げられます。
- 漠然とした不安や心配を伴う: 体調の悪さだけでなく、「このまま悪くなるのではないか」「誰にも迷惑をかけたくない」といった健康に関する過度な不安や、将来への心配を口にする機会が増えることがあります。
- 気分の落ち込みや意欲の低下が見られる: 体調が悪いという訴えとともに、以前は楽しんでいた趣味への関心を失ったり、活動的でなくなったり、全体的に元気がない様子が見られたりする場合です。食欲不振や睡眠の変化(眠れない、寝すぎるなど)も、体調不良と同時に現れるうつ病のサインである可能性があります。
- 医療機関への受診をためらう、または受診しても症状が改善しない: 体調が悪いと言いながらも、病院に行くのを強く拒んだり、行っても「どこも悪くないと言われた」と繰り返したり、薬をきちんと服用しないなど、医療的なアプローチでは症状が改善しないように見える場合です。これは、身体的な問題だけでなく、心の状態が背景にあるサインかもしれません。
- 「かまってほしい」「心配してほしい」という無意識のサイン: 孤独を感じている高齢者が、自身の体調不良を訴えることで、家族からの連絡や関心を引こうとすることがあります。これは意識的な行動というより、心の寂しさや不安がそうさせている場合が多いです。
これらのサインは、必ずしも精神疾患を意味するものではありませんが、親御さんの心の状態に目を向けるきっかけとして捉えることが重要です。
なぜ体調不良が心の状態と関連するのか
高齢期には、体の変化だけでなく、様々なライフイベントを経験することが増えます。配偶者との死別、友人との別れ、退職、住み慣れた場所からの引っ越し、経済的な不安、自身の健康状態への懸念など、多くの変化がストレスとなり得ます。
このような心の負担は、自律神経の乱れなどを通じて、頭痛、胃痛、倦怠感といった身体的な症状として現れることがあります。特に、高齢者の場合、若い世代と比較して精神的なつらさを「体の不調」として訴える傾向があるとも言われます。
また、認知機能の低下が始まっている場合、自身の体の状態を正確に把握できなかったり、些細な変化に過剰に不安を感じたりすることが、体調不良の訴えにつながることもあります。
家族ができること:気づきと声かけのポイント
離れて暮らす親御さんの体調不良の訴えに対し、家族としてどのように寄り添い、適切なサポートができるのでしょうか。
まずは親御さんの言葉に耳を傾ける
体調不良の訴えを安易に「またか」「気のせいだろう」と受け流したり、否定したりせず、まずは親御さんの話をじっくり聞く姿勢が大切です。つらさを感じているという親御さんの気持ちに寄り添い、「どこがつらいの?」「いつから?」「何か変わったことあった?」など、具体的に尋ねてみましょう。話を聞いてもらえるだけで、安心感につながることもあります。
電話やオンラインでの観察ポイント
直接会うのが難しい場合でも、電話やビデオ通話で親御さんの様子を注意深く観察することができます。
- 声のトーンや話し方: 以前より元気がない、弱々しい、早口になる、同じことを繰り返すなどの変化はありませんか。
- 表情: 電話では見えませんが、ビデオ通話であれば表情を観察できます。笑顔が少ない、暗い表情をしているなどの変化に気づくことがあります。
- 話す内容: 体調の悪い話ばかりする、ネガティブな話題が増える、将来を悲観するような発言が増えるなどの変化に注意しましょう。
- 生活の変化: 食事の回数や量、睡眠時間、日中の過ごし方など、生活習慣の変化についてさりげなく尋ねてみましょう。
受診や専門家への相談を促す声かけの工夫
体調不良の訴えが続く場合や、心のサインが疑われる場合は、医療機関や専門機関への相談を検討することが重要です。しかし、親御さん自身が受診をためらったり、心の状態について話したがらなかったりすることもあります。
- 共感を示す: 「つらいのに原因がわからないのは不安だね」「〇〇の不調、続いているんだね、心配だよ」など、親御さんのつらさに共感する言葉を伝えましょう。
- 一緒に考える姿勢: 「一度、先生に相談してみようか」「どこか受診しやすい病院を一緒に探してみようか」など、「あなたの問題」ではなく「私たちの問題」として一緒に解決策を考える姿勢を示すと、受け入れられやすくなります。
- 目標を明確にする: 例えば、「少しでも楽になる方法が見つかるかもしれない」「原因が分かれば安心できるね」など、受診や相談によって得られるメリットを具体的に伝えることも有効です。
- 頭ごなしに否定しない: 「気のせいだよ」「大げさだよ」といった言葉は避け、親御さんの感じているつらさを尊重しましょう。
専門家への相談を検討するタイミングと相談先
体調不良の訴えが続いたり、日常生活に支障が出ている様子が見られたり、家族だけで抱えきれないと感じた場合は、専門家への相談を検討するタイミングです。
- かかりつけ医: まずは、親御さんが普段から受診しているかかりつけ医に相談してみましょう。身体的な病気が隠れていないかを確認してもらうことが第一歩です。かかりつけ医が、必要に応じて専門医を紹介してくれることもあります。
- 地域包括支援センター: 高齢者の様々な相談に応じる地域の総合相談窓口です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが連携し、医療や介護、福祉サービスなど、多角的な視点からのアドバイスや支援を受けることができます。どのような専門機関に相談すべきか分からない場合にも、まずは地域包括支援センターに連絡してみるのが良いでしょう。
- 精神科・心療内科: 心身の不調が強く疑われる場合は、精神科や心療内科の受診も選択肢の一つです。高齢者のメンタルヘルスに詳しい医師であれば、身体症状の背景にある心の状態を適切に診断し、治療やケアにつなげてくれます。
- 保健所・精神保健福祉センター: 公的な機関として、心の健康に関する相談を受け付けています。電話相談や対面相談、医療機関の紹介などを行っています。
相談する際には、親御さんの体調不良の具体的な症状、いつから始まったか、どのような時に悪化するか、食欲や睡眠、気分や意欲の変化など、気づいたことを整理して伝えると、よりスムーズに相談が進みます。
家族自身の心のケアも大切に
離れて暮らす親の状況を心配し、サポートすることは、家族にとっても大きな精神的負担となることがあります。特に、親御さん自身が自分の状態を認めず、サポートを拒否する場合など、対応に疲れてしまうこともあるでしょう。
一人で抱え込まず、パートナーや兄弟姉妹と協力したり、友人や信頼できる人に話を聞いてもらったりすることも大切です。また、前述の地域包括支援センターや、家族の会なども相談先となり得ます。家族自身の心身の健康も維持しながら、無理のない範囲でサポートを続けていくことが重要です。
まとめ
離れて暮らす親からの体調不良の訴えは、単なる体の変化だけでなく、心のSOSである可能性も秘めています。親御さんの言葉に耳を傾け、日々の様子から小さな変化に気づくことが、早期のサポートにつながります。家族だけで抱え込まず、必要に応じて地域包括支援センターや医療機関などの専門機関に相談し、適切な支援を得ながら、親御さんの心の晴れ間を支えていきましょう。