離れて暮らす親が将来を過度に心配するようになったら?知っておきたい心のサインと家族のサポート
はじめに
遠方に住む高齢の親御さんとのやり取りの中で、「将来のことが心配だ」「この先どうなるんだろう」といった言葉を聞く機会が増えたり、漠然とした不安を感じている様子がうかがえたりすることはないでしょうか。特に離れて暮らしていると、親御さんの日々の細かな変化に気づきにくく、不安を感じていても、どのように対応すれば良いのか迷ってしまうこともあるかと思います。
高齢になると、健康状態の変化、経済的なこと、大切な人との別れなど、将来に対する様々な心配事が増える傾向があります。ある程度の心配は自然なことですが、それが過度になると、心身の健康に影響を及ぼす可能性も考えられます。
この記事では、離れて暮らす親御さんが将来を過度に心配している場合に考えられる心のサインや、それに気づいた際の家族の適切な声かけ、専門家への相談のタイミングと窓口、そして家族としてできるサポートについて解説します。
高齢者が将来に不安を感じやすい背景
高齢期は、身体機能や認知機能の変化、定年退職による社会とのつながりの変化、収入の変化、近親者との死別など、人生における大きな変化を経験しやすい時期です。これらの変化は、誰にとっても多かれ少なかれストレスとなり、将来への漠然とした不安や、時には強い孤独感につながることがあります。
また、過去の出来事に対する後悔や、自分自身の価値に対する自信の低下なども、不安を増幅させる要因となり得ます。このような不安は自然な感情の側面もありますが、それが日常生活に支障をきたすほど強いものになったり、長く続いたりする場合は、心の健康の観点から注意が必要となる場合があります。
「過度な心配」の隠れたサイン
離れて暮らす親御さんの「過度な心配」は、電話やオンラインでの会話、短い帰省時などに、以下のような形で現れることがあります。具体的な言葉や行動の変化に気づくことが重要です。
- 同じ心配事を繰り返し話す: 一度話したことや、既に解決したこと、あるいは現実には起こる可能性が低いことに対して、何度も同じ心配を口にする様子が見られます。
- 些細なことでも過剰に不安がる: ちょっとした体調の変化や、小さな出来事に対して、必要以上に深刻に受け止め、不安を募らせる傾向があります。
- 何か行動を起こすのをためらう、消極的になる: 不安からくる自信のなさや失敗への恐れから、新しいことを始めるのをためらったり、外出や人との交流を避けたりすることがあります。
- 体調不良の訴えが増える: 特定の病気ではないのに、「頭が痛い」「お腹の調子が悪い」「だるい」など、漠然とした身体の不調を頻繁に訴えるようになることがあります。これは、心の不安が身体症状として現れている可能性(心気的な側面)も考えられます。
- 眠れない、食欲がないなどの身体症状: 不安が強いと、寝つきが悪くなる、夜中に目が覚める、食欲がなくなる、あるいは逆に過食になるなどの変化が現れることがあります。
- イライラしたり、落ち着きがなくなったりする: 不安や緊張感から、以前より怒りっぽくなったり、落ち着きがなくなりそわそわしたりする様子が見られることがあります。
- 漠然とした不調を訴える: 具体的な心配事ではないけれど、「どうも調子が出ない」「なんだか落ち着かない」といった、はっきりしない不調を訴えることがあります。
これらのサインは、必ずしも過度な心配だけを示すものではありませんが、以前と比べて頻繁に見られるようになった場合は、親御さんの心の状態に寄り添い、注意深く見守ることが大切です。
これらのサインに気づいたら:家族の適切な声かけと接し方
親御さんの過度な心配や不安のサインに気づいたとき、どのように接すれば良いか戸惑うかもしれません。大切なのは、親御さんの気持ちに寄り添い、安心感を与えることです。
- まずは耳を傾ける姿勢を示す(傾聴): 親御さんが話す内容を、途中で遮らず、否定せず、まずはじっくりと聞く姿勢を示しましょう。「うんうん」「そうなんだね」といった相槌を挟みながら、関心を持って聞いていることを伝えましょう。
- 心配事を否定せず、共感的に受け止める: 「そんなこと心配しなくて大丈夫だよ」「気にしすぎだよ」といった言葉は、親御さんの気持ちを否定されたと感じさせてしまう可能性があります。「〇〇について心配なんだね」「将来のことが気になっているんだね」のように、まずは気持ちに共感する言葉を伝えましょう。
- 具体的な解決策を急がず、安心感を与えることを優先する: 家族としてはすぐに解決策を提示したくなるかもしれませんが、まずは親御さんが不安な気持ちを話せる安心できる環境を提供することが重要です。解決は急がず、寄り添うことを優先しましょう。
- 「大丈夫だよ」ではなく、「心配なんだね」と気持ちに寄り添う: 心配を否定するのではなく、「心配なんだね」と、その感情を言葉にして返すことで、親御さんは「理解してもらえている」と感じやすくなります。
- 無理に聞き出そうとしない: 話したがらないことや、繰り返し同じことを話す場合でも、無理に深掘りしようとせず、親御さんのペースに合わせましょう。話を聞いてもらえたという安心感が、気持ちを落ち着かせることにつながる場合もあります。
- 電話やオンラインでの様子観察のポイント: 声のトーンや話し方、表情(オンラインの場合)に注目しましょう。以前よりも声が沈んでいる、話すスピードが遅い、表情が乏しい、会話が続かないといった変化がないか観察します。また、会話の中でネガティブな話題が増えていないか、同じ心配事を繰り返していないかにも注意しましょう。
専門家への相談を考えるタイミングと相談先
親御さんの心配が単なる一時的なものではなく、以下のような状態が見られる場合は、専門家への相談を検討するタイミングかもしれません。
- サインが長期間続いている
- 日常生活(食事、睡眠、外出、人との交流など)に明らかな支障が出ている
- 本人が不安や苦痛を強く感じている、あるいは「死にたい」といった言動が見られる
- 家族の声かけやサポートだけでは状態が改善しない
一人で悩まず、専門家の助けを借りることも大切な選択肢です。相談先にはいくつかの種類があります。
- 地域包括支援センター: 高齢者の暮らしを地域で支えるための総合相談窓口です。社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーなどが配置されており、介護、医療、福祉など様々な相談に乗ってくれます。親御さんの心身の状態についてどこに相談すれば良いか分からない場合に、まず最初に連絡してみるのに適した場所です。無料で相談できます。
- かかりつけ医: 親御さんの日頃の体調を把握しているかかりつけ医に相談することも有効です。不安の原因が身体的な病気によるものではないかを確認してもらえますし、必要に応じて精神科医や心療内科医を紹介してもらうことも可能です。
- 精神科医・心療内科医: 精神的な不調や不安の専門家です。受診により、適切な診断や治療(薬物療法や精神療法など)を受けることができます。親御さんが受診に抵抗がある場合は、まずは家族だけで相談に行ける医療機関もあります。
- 市町村の相談窓口: 市町村によっては、保健師や精神保健福祉士による高齢者向けの健康相談や心の健康相談窓口を設けている場合があります。
専門機関に相談する際は、いつ頃からどのようなサインが見られるようになったか、家族としてどのような声かけやサポートを試みたか、親御さんの日頃の様子などをまとめておくと、相談がスムーズに進みます。
家族ができる具体的なサポート
離れて暮らす家族として、親御さんの不安に寄り添い、サポートするためにできることはいくつかあります。
- 定期的な連絡を続ける: 電話やオンラインでの定期的な連絡は、親御さんにとって大きな安心材料になります。短い時間でも良いので、日々の些細な出来事を話したり聞いたりする時間を持つことで、孤立を防ぎ、つながりを感じてもらうことができます。
- 安心できる環境作り: 電話でじっくり話を聞く時間を確保したり、可能であれば短時間でも帰省して一緒に過ごしたりすることで、親御さんに「見守られている」「大切にされている」と感じてもらうことが、心の安定につながります。物理的な環境として、転倒の危険がないか、寒すぎないかなど、安全で快適な住環境にも配慮しましょう。
- 専門家と連携する重要性: 専門家への相談を勧めるだけでなく、必要に応じて診察への付き添いや、専門家からのアドバイスを家庭内で実践するなど、専門家と協力しながらサポートを進めることが重要です。
- 家族自身の情報収集と理解: 高齢期の心の変化や、不安、うつ病などについて正しく理解することは、親御さんへの適切な対応につながります。信頼できる情報源から学び、必要に応じて家族だけで専門家の話を聞く機会を持つことも有効です。
- 本人のペースを尊重する: 不安を取り除くために、すぐに何か行動を変えたり、新しいことに挑戦したりすることを促したくなるかもしれませんが、親御さんの気持ちやペースを尊重することが大切です。無理強いは逆効果になることがあります。
- 必要に応じて、地域資源の検討: 親御さんの状態によっては、デイサービスや趣味のサークルへの参加など、地域の中での交流や活動を促すことも有効な場合があります。地域包括支援センターなどに相談し、利用できるサービスについて情報を得ることも検討しましょう。
まとめ
離れて暮らす高齢の親御さんが将来について過度に心配する様子は、遠方の家族にとって見逃しやすい変化かもしれません。しかし、その背景には様々な要因があり、心の不調のサインである可能性も考えられます。
親御さんの「過度な心配」のサインに気づいたら、まずはその気持ちに寄り添い、否定せず傾聴することが大切です。家族の声かけやサポートだけでは難しいと感じたり、日常生活に支障が出ている場合は、地域包括支援センターや医療機関などの専門機関に相談することも重要な一歩です。
家族は、親御さんにとって最も身近なサポーターです。適切な知識を持ち、専門家と連携しながら、親御さんが少しでも安心して日々を過ごせるよう、共に支えていきましょう。この記事が、親御さんの心の変化に気づき、次の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
※この記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代替となるものではありません。親御さんの心身の状態に不安がある場合は、必ず専門医や専門機関にご相談ください。