こころの晴れ間

離れて暮らす親の物忘れや同じ話の繰り返しに気づいたら?認知機能の変化と心のサイン

Tags: 高齢者, メンタルヘルス, 認知症, 物忘れ, うつ病, 遠距離介護, 家族サポート

はじめに:離れて暮らす親の変化に気づくとき

遠方に住む高齢の親御さんと電話やオンラインで話している時、あるいは久しぶりに会った時、「あれ?なんだか様子が違うな」と感じることはありませんか。特に、最近同じ話を繰り返したり、以前より物忘れが増えたように感じたりすると、「これは単なる歳のせいなのだろうか」「もしかして認知症が進んでいるのだろうか」と、漠然とした不安が心をよぎるかもしれません。

これらの変化は、確かに加齢や認知機能の低下を示している可能性があり、それ自体が親御さんやご家族にとって大きな心配事となります。しかし、こうしたサインの背景には、見過ごされがちな心の不調が隠れていることも少なくありません。

この記事では、離れて暮らす親御さんの物忘れや同じ話の繰り返しといった変化に気づいた際に、それが示す可能性のある認知機能の変化や、関連して起こりうるメンタルヘルスのサインについてご説明します。また、ご家族がどのように関われば良いか、どこに相談すれば良いかといった具体的な対応についても解説します。親御さんの変化に気づき、どうすれば良いか悩んでいる方へ、少しでもヒントとなれば幸いです。

親の物忘れや同じ話の繰り返しに気づく具体的なサイン

離れて暮らしているからこそ、親御さんの変化に気づくのは難しいこともあります。しかし、電話やオンラインでの短い会話の中にも、変化のサインが隠れていることがあります。

これらのサインは、単なる「うっかり」や加齢によるものとは異なる、より頻繁で目立つ変化として現れる場合があります。

なぜ物忘れや同じ話の繰り返しが起こるのか?考えられる原因

物忘れや同じ話の繰り返しが見られる場合、いくつかの原因が考えられます。

  1. 加齢に伴う生理的な変化: 年齢を重ねると、新しいことを覚えたり、すぐに思い出したりするスピードが若い頃より遅くなることがあります。これは誰にでも起こりうる自然な変化(生理的老化)であり、日常生活に大きな支障をきたすほどではないのが特徴です。
  2. 認知機能の低下: 軽度認知障害(MCI)や認知症の初期症状として現れることがあります。特に、新しい出来事や情報を覚えることが難しくなったり、時間や場所の感覚が曖昧になったりといった形で現れる場合があります。
  3. メンタルヘルスの不調: うつ病など、高齢期に起こりやすい心の病気の症状として、物忘れや集中力の低下が見られることがあります。これを「仮性認知症」と呼ぶこともあります。うつ病による物忘れは、認知症のように記憶そのものが失われるというよりは、気力や集中力の低下によって、情報を覚えたり思い出したりすることが難しくなっている状態と考えられます。
  4. その他の身体的な原因: 薬剤の副作用、脱水、栄養不足(特にビタミンB群)、甲状腺機能の異常、慢性硬膜下血腫など、治療可能な病気が原因で認知機能が一時的に低下することもあります。

このように、物忘れや同じ話の繰り返しというサインの背景には、様々な要因が考えられます。特に、認知機能の低下とメンタルヘルスの不調は、症状が似ていることも多く、専門家による適切な判断が重要になります。

見過ごせない「心のサイン」との関連

物忘れや同じ話の繰り返しに加えて、以下のようなサインが見られる場合、認知機能の低下だけでなく、メンタルヘルスの不調(特に高齢者のうつ病)も考慮に入れる必要があります。

これらのサインが複数見られる場合、単なる加齢や物忘れとして片付けず、心の健康状態に目を向けることが大切です。高齢者のうつ病は、活動性の低下や体の不調として現れやすく、悲しみや落ち込みといった典型的なうつ病の症状が見えにくいことがあるため、周囲が気づきにくい場合があります。

家族ができること:気づきから対応へ

離れて暮らす親御さんの変化に気づいたら、どのように対応すれば良いのでしょうか。

1. 焦らず、優しく関わる

物忘れや同じ話の繰り返しに対し、指摘したり問い詰めたりすることは避けましょう。親御さん自身も不安を感じている可能性があります。「また同じ話だ」と思っても、初めて聞くかのように耳を傾けるくらいのゆとりを持つことが大切です。親御さんのペースに合わせて、穏やかに、否定せずに話を聞いてあげてください。

声かけの例:

2. 変化を記録する

どのような時に、どのような物忘れが見られるのか、同じ話を繰り返す頻度はどうかなど、具体的な様子をメモしておくと良いでしょう。これは、後で専門家に相談する際に非常に役立つ情報となります。いつから変化が見られたのか、どのような状況で起こるのかなど、客観的な記録を心がけてください。

3. 生活環境や状況を確認する

電話やオンラインでの会話を通じて、親御さんの生活状況を遠隔で把握することも重要です。 * 食事がきちんと取れているか * 睡眠は十分か * 日中の活動はどうか * 近所との交流はあるか * 最近何か心配事や困りごとはないか

可能であれば、短時間でもビデオ通話を利用したり、ご近所の方や民生委員の方などにさりげなく様子を伺ってもらったりすることも、状況把握の一助となります。

4. 専門家への相談を検討する

物忘れや同じ話の繰り返しが頻繁に見られるようになった、あるいは、それに加えて上記で述べたような心のサインが見られる場合は、一度専門家に相談することを強くお勧めします。

「歳のせいだから」と決めつけず、背景に何があるのかを専門的な目で判断してもらうことが、適切なケアやサポートにつながります。早期に相談することで、治療可能な病気であれば早期に発見・治療できますし、認知症やうつ病の場合でも、適切な対応やサポートを早期に開始することができます。

どこに相談すれば良いか?具体的な相談先

離れて暮らす親御さんの変化について相談できる窓口はいくつかあります。

これらの相談先を利用する際は、事前にメモしておいた親御さんの変化の様子(いつから、どのような状況で、頻度など)を具体的に伝えられるように準備しておくと、より的確なアドバイスを得やすくなります。

家族自身の心のケアも大切に

離れて暮らす親御さんの変化に気づき、心配し、対応を考えることは、ご家族にとって大きな精神的な負担となることがあります。仕事や家事、ご自身の家族のこともあり、時間的にも精神的にも余裕がない中で、さらに親御さんの状況が加わると、疲弊してしまうこともあります。

親御さんのサポートは大切ですが、ご自身の健康、特に心の健康も同様に大切です。一人で抱え込まず、パートナーや兄弟姉妹、友人、あるいは地域の相談窓口などに話を聞いてもらう、悩みを共有するといった機会を持つようにしてください。ご家族自身が心身ともに健康であってこそ、親御さんを長く支え続けることができます。

まとめ

離れて暮らす親御さんの物忘れや同じ話の繰り返しは、単なる加齢だけでなく、認知機能の変化やメンタルヘルスの不調など、様々な可能性を示すサインです。これらの変化に気づいたら、まずは焦らず、親御さんのペースに合わせて優しく関わることを心がけてください。

そして、変化を記録し、必要であれば地域の地域包括支援センターやかかりつけ医など、専門機関に相談することを検討しましょう。早期に適切な情報やサポートを得ることが、親御さんにとっても、ご家族にとっても、より良い未来につながります。

この情報が、親御さんの変化に気づき、不安を感じているご家族の皆さまにとって、次の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。