離れて暮らす親の物忘れや同じ話の繰り返しに気づいたら?認知機能の変化と心のサイン
はじめに:離れて暮らす親の変化に気づくとき
遠方に住む高齢の親御さんと電話やオンラインで話している時、あるいは久しぶりに会った時、「あれ?なんだか様子が違うな」と感じることはありませんか。特に、最近同じ話を繰り返したり、以前より物忘れが増えたように感じたりすると、「これは単なる歳のせいなのだろうか」「もしかして認知症が進んでいるのだろうか」と、漠然とした不安が心をよぎるかもしれません。
これらの変化は、確かに加齢や認知機能の低下を示している可能性があり、それ自体が親御さんやご家族にとって大きな心配事となります。しかし、こうしたサインの背景には、見過ごされがちな心の不調が隠れていることも少なくありません。
この記事では、離れて暮らす親御さんの物忘れや同じ話の繰り返しといった変化に気づいた際に、それが示す可能性のある認知機能の変化や、関連して起こりうるメンタルヘルスのサインについてご説明します。また、ご家族がどのように関われば良いか、どこに相談すれば良いかといった具体的な対応についても解説します。親御さんの変化に気づき、どうすれば良いか悩んでいる方へ、少しでもヒントとなれば幸いです。
親の物忘れや同じ話の繰り返しに気づく具体的なサイン
離れて暮らしているからこそ、親御さんの変化に気づくのは難しいこともあります。しかし、電話やオンラインでの短い会話の中にも、変化のサインが隠れていることがあります。
- 電話での会話で気づくサイン:
- 少し前に話した内容を覚えておらず、同じ質問や話を繰り返す。
- 約束したこと(例:○日に電話する、△を送る)を忘れている。
- 最近の出来事よりも、昔の出来事に関する話が多くなる。
- 会話のつじつまが合わないことがある。
- 物の名前が出てこないことが増える。
- オンラインでの顔を見ての会話で気づくサイン:
- 上記に加え、表情に以前のような活気が見られない。
- 服装や身だしなみが以前より気にかけられていないように見える。
- 部屋の様子が以前より片付いていない、物が散らかっている。
これらのサインは、単なる「うっかり」や加齢によるものとは異なる、より頻繁で目立つ変化として現れる場合があります。
なぜ物忘れや同じ話の繰り返しが起こるのか?考えられる原因
物忘れや同じ話の繰り返しが見られる場合、いくつかの原因が考えられます。
- 加齢に伴う生理的な変化: 年齢を重ねると、新しいことを覚えたり、すぐに思い出したりするスピードが若い頃より遅くなることがあります。これは誰にでも起こりうる自然な変化(生理的老化)であり、日常生活に大きな支障をきたすほどではないのが特徴です。
- 認知機能の低下: 軽度認知障害(MCI)や認知症の初期症状として現れることがあります。特に、新しい出来事や情報を覚えることが難しくなったり、時間や場所の感覚が曖昧になったりといった形で現れる場合があります。
- メンタルヘルスの不調: うつ病など、高齢期に起こりやすい心の病気の症状として、物忘れや集中力の低下が見られることがあります。これを「仮性認知症」と呼ぶこともあります。うつ病による物忘れは、認知症のように記憶そのものが失われるというよりは、気力や集中力の低下によって、情報を覚えたり思い出したりすることが難しくなっている状態と考えられます。
- その他の身体的な原因: 薬剤の副作用、脱水、栄養不足(特にビタミンB群)、甲状腺機能の異常、慢性硬膜下血腫など、治療可能な病気が原因で認知機能が一時的に低下することもあります。
このように、物忘れや同じ話の繰り返しというサインの背景には、様々な要因が考えられます。特に、認知機能の低下とメンタルヘルスの不調は、症状が似ていることも多く、専門家による適切な判断が重要になります。
見過ごせない「心のサイン」との関連
物忘れや同じ話の繰り返しに加えて、以下のようなサインが見られる場合、認知機能の低下だけでなく、メンタルヘルスの不調(特に高齢者のうつ病)も考慮に入れる必要があります。
- 気力や意欲の低下: 以前は楽しんでいた趣味や外出に関心を示さなくなった。
- 活動量の減少: 家で過ごす時間が増え、身の回りのこと以外にあまり動かなくなった。
- 表情の変化: 笑顔が減り、どこか沈んだ表情をしていることが多い。
- 否定的な言動:「自分はもうダメだ」「迷惑をかけている」といった自己否定的な発言が増える。
- 睡眠や食欲の変化: 眠れない日が続く、あるいは一日中眠っている。食欲がなくなり、体重が減った。
- 体の不調の訴え: 具体的な原因が見当たらない体の痛みや不調を繰り返し訴える。
- 身だしなみや衛生状態の悪化: 以前は綺麗好きだったのに、服装や部屋が乱れてきた。
これらのサインが複数見られる場合、単なる加齢や物忘れとして片付けず、心の健康状態に目を向けることが大切です。高齢者のうつ病は、活動性の低下や体の不調として現れやすく、悲しみや落ち込みといった典型的なうつ病の症状が見えにくいことがあるため、周囲が気づきにくい場合があります。
家族ができること:気づきから対応へ
離れて暮らす親御さんの変化に気づいたら、どのように対応すれば良いのでしょうか。
1. 焦らず、優しく関わる
物忘れや同じ話の繰り返しに対し、指摘したり問い詰めたりすることは避けましょう。親御さん自身も不安を感じている可能性があります。「また同じ話だ」と思っても、初めて聞くかのように耳を傾けるくらいのゆとりを持つことが大切です。親御さんのペースに合わせて、穏やかに、否定せずに話を聞いてあげてください。
声かけの例:
- 「〇〇の話、面白かったよ。そういえば△△はどうなったの?」のように、さりげなく別の話題に誘導してみる。
- 「この前の電話で話したこと、もう一度聞かせてくれる?」のように、優しく確認する。
- 親御さんが話している内容に相槌を打ち、「うんうん」「そうだったんだね」と共感的な姿勢を示す。
2. 変化を記録する
どのような時に、どのような物忘れが見られるのか、同じ話を繰り返す頻度はどうかなど、具体的な様子をメモしておくと良いでしょう。これは、後で専門家に相談する際に非常に役立つ情報となります。いつから変化が見られたのか、どのような状況で起こるのかなど、客観的な記録を心がけてください。
3. 生活環境や状況を確認する
電話やオンラインでの会話を通じて、親御さんの生活状況を遠隔で把握することも重要です。 * 食事がきちんと取れているか * 睡眠は十分か * 日中の活動はどうか * 近所との交流はあるか * 最近何か心配事や困りごとはないか
可能であれば、短時間でもビデオ通話を利用したり、ご近所の方や民生委員の方などにさりげなく様子を伺ってもらったりすることも、状況把握の一助となります。
4. 専門家への相談を検討する
物忘れや同じ話の繰り返しが頻繁に見られるようになった、あるいは、それに加えて上記で述べたような心のサインが見られる場合は、一度専門家に相談することを強くお勧めします。
「歳のせいだから」と決めつけず、背景に何があるのかを専門的な目で判断してもらうことが、適切なケアやサポートにつながります。早期に相談することで、治療可能な病気であれば早期に発見・治療できますし、認知症やうつ病の場合でも、適切な対応やサポートを早期に開始することができます。
どこに相談すれば良いか?具体的な相談先
離れて暮らす親御さんの変化について相談できる窓口はいくつかあります。
- 地域包括支援センター: 地域に住む高齢者やその家族を多角的にサポートする総合相談窓口です。保健師、社会福祉士、ケアマネジャーなどの専門職が連携しており、認知症やメンタルヘルス、介護など、様々な相談に対応しています。まずは地域の地域包括支援センターに連絡してみるのが良いでしょう。親御さんの居住地のセンターにご家族が相談することも可能です。
- かかりつけ医: 親御さんが日頃から通っているかかりつけ医に相談することも有効です。親御さんの普段の様子を知っているため、身体的な問題の可能性も考慮しつつ、必要な専門医(もの忘れ外来や精神科など)への紹介状を書いてもらえる場合があります。
- もの忘れ外来、精神科、心療内科: 認知機能や心の専門医がいる医療機関です。正確な診断や治療を受けることができます。受診を検討する際には、事前に電話で状況を説明し、予約の際に親御さんの同伴が必要か、ご家族のみの相談が可能かなどを確認するとスムーズです。
- 自治体の高齢者福祉担当窓口: 地域包括支援センターと連携していることが多く、様々な相談に対応しています。
- 精神保健福祉センター: 精神的な健康に関する相談窓口です。専門家による助言や情報提供を受けることができます。
これらの相談先を利用する際は、事前にメモしておいた親御さんの変化の様子(いつから、どのような状況で、頻度など)を具体的に伝えられるように準備しておくと、より的確なアドバイスを得やすくなります。
家族自身の心のケアも大切に
離れて暮らす親御さんの変化に気づき、心配し、対応を考えることは、ご家族にとって大きな精神的な負担となることがあります。仕事や家事、ご自身の家族のこともあり、時間的にも精神的にも余裕がない中で、さらに親御さんの状況が加わると、疲弊してしまうこともあります。
親御さんのサポートは大切ですが、ご自身の健康、特に心の健康も同様に大切です。一人で抱え込まず、パートナーや兄弟姉妹、友人、あるいは地域の相談窓口などに話を聞いてもらう、悩みを共有するといった機会を持つようにしてください。ご家族自身が心身ともに健康であってこそ、親御さんを長く支え続けることができます。
まとめ
離れて暮らす親御さんの物忘れや同じ話の繰り返しは、単なる加齢だけでなく、認知機能の変化やメンタルヘルスの不調など、様々な可能性を示すサインです。これらの変化に気づいたら、まずは焦らず、親御さんのペースに合わせて優しく関わることを心がけてください。
そして、変化を記録し、必要であれば地域の地域包括支援センターやかかりつけ医など、専門機関に相談することを検討しましょう。早期に適切な情報やサポートを得ることが、親御さんにとっても、ご家族にとっても、より良い未来につながります。
この情報が、親御さんの変化に気づき、不安を感じているご家族の皆さまにとって、次の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。