高齢の親が「心療内科なんて…」と相談を拒否したら?家族ができる理解と声かけ
離れて暮らす親の「心の不調」が心配…でも、専門家への相談をためらわれたら?
離れて暮らすご両親の様子がいつもと違い、「もしかしたら、心の健康に何か変化があるのかもしれない」と感じる時があるかもしれません。そんな時、専門家への相談を勧めてみようと思っても、「心療内科なんて行く必要はない」「私は大丈夫だから」と、かえって拒否されてしまうことがあります。
大切なわが子から心配されるのは嬉しい半面、慣れない場所へ行くことや、心の状態を話すことに抵抗を感じる高齢の方は少なくありません。ここでは、なぜ高齢の親が専門家への相談をためらいがちなのか、そして、その気持ちに寄り添いながら、家族としてどのようにサポートできるのかについて考えていきます。
なぜ高齢者は専門家への相談をためらいがちなのか
高齢の方が心の不調を感じていても、専門家への相談にためらいを感じる背景には、いくつかの理由が考えられます。
- 精神科や心療内科に対する偏見: 「精神的な病気は特別な人がかかるもの」「一度行ったら周りに知られるのではないか」といった古いイメージや根強い偏見がある場合があります。
- 「弱みを見せたくない」という気持ち: 年齢を重ねても、家族や周りの人に「弱った姿を見せたくない」「心配をかけたくない」という気持ちが強いことがあります。
- 「年のせいだ」と諦めてしまう: 体や心の変化を「もう年だから仕方ない」と受け止め、専門的なケアの対象になると考えない場合があります。
- 受診方法への不安: どうやって予約するのか、どこに行けば良いのか、費用はどのくらいかかるのかなど、具体的な受診方法が分からず不安を感じることがあります。
- 他人に話すことへの抵抗感: 自分の内面や感情を、家族以外の人、特に初対面の専門家に話すことに強い抵抗を感じることがあります。
これらの背景を理解することが、親御さんの気持ちに寄り添う第一歩となります。
親の抵抗感を理解するために大切なこと
親御さんが専門家への相談をためらったり、拒否したりすることには、上に挙げたような様々な理由があることを知っておきましょう。「どうして分かってくれないの?」と一方的に説得しようとするのではなく、まずは親御さんの「ためらう気持ち」そのものを受け止める姿勢が大切です。
「病院は気が進まないわよね」「知らない人に話すのは戸度惑うかもしれないわね」など、親御さんの言葉や表情から感じ取れる不安や抵抗感に共感する言葉をかけることで、親御さんは「自分の気持ちを分かってもらえた」と感じ、少しずつ心を開いてくれる可能性があります。
相談をためらう親への具体的な声かけと接し方
専門家への相談を直接的に勧めることが難しい場合でも、別の角度からの声かけや接し方を試みることができます。
- 「心の不調」という言葉を避ける: 「精神科に行こう」「心の病気かもしれない」といった言葉は、親御さんに抵抗感を与えやすい場合があります。「最近、なんだか眠れない日が続いているみたいだから、一度お医者さんに相談してみるのはどうかしら?」「なんだか元気がないように見えるから、誰か専門の人に話を聞いてもらうだけでも楽になるかもしれないわよ」のように、具体的な症状や「話を聞いてもらうこと」に焦点を当てる声かけの方が受け入れられやすいかもしれません。
- かかりつけ医への相談を提案する: 普段から通っている内科などのかかりつけ医がいる場合は、まずはかかりつけ医に相談してみることを提案するのも良い方法です。日頃から信頼している医師であれば、比較的抵抗なく話を聞いてもらいやすいでしょう。かかりつけ医から専門機関への橋渡しをしてもらうことも可能です。
- 「悩み相談」として提案する: 「病院に行く」という堅苦しいイメージではなく、「ちょっと誰かに話を聞いてもらう場所」「心のモヤモヤを整理するお手伝いをしてくれる人」といったニュアンスで伝えることも有効です。「最近考えすぎちゃうみたいだから、プロの人に少しアドバイスをもらってみたら?」「昔はよく話を聞いてくれた〇〇さんがいたけど、今はなかなか話し相手がいないでしょう?相談できる場所があるみたいよ」など、親御さんの状況に合わせて表現を工夫してみましょう。
- 地域包括支援センターを活用する: 専門的な相談機関に抵抗がある場合でも、地域包括支援センターは比較的利用しやすい身近な相談窓口です。保健師や社会福祉士といった専門職が常駐しており、高齢者の様々な困りごとについて相談に乗ってくれます。まずは地域の支援センターに家族が相談に行き、情報を得ることから始めても良いでしょう。
- 一緒に情報収集をする: どのような専門機関があるのか、どのような相談ができるのかなど、親御さんと一緒に情報を集めてみるのも良いでしょう。パンフレットを見たり、ウェブサイトを一緒に見たりすることで、具体的なイメージが湧きやすくなり、不安が軽減されることがあります。
声かけは一度きりではなく、親御さんの様子を見ながら、焦らず根気強く続けていくことが大切です。強い口調で押し付けたり、無理やり連れて行こうとしたりすると、かえって心を閉ざしてしまう可能性があるため注意が必要です。
家族自身が冷静に情報を集める
親御さんの変化に気づき、心配になるのは自然なことです。しかし、家族が感情的になったり、パニックになったりすると、親御さんも不安を感じてしまいます。まずは家族自身が、高齢者のメンタルヘルスについて正しい知識を得て、冷静に対応することが重要です。
「こころの晴れ間」のような情報サイトや、自治体の高齢者相談窓口、精神保健福祉センターなどで情報収集をすることができます。親御さんの状態がどのようなものなのか、どのようなサポートが有効なのかを知ることで、適切な行動を選択できるようになります。
それでも専門家のサポートが必要と感じたら
親御さんが専門家への相談に強い抵抗を示している場合でも、以下のようなサインが見られる場合は、改めて専門家への相談を検討することが重要です。
- 食欲不振が続き、体重が著しく減少した
- ほとんど眠れない日が続いている
- 引きこもりがちになり、誰とも交流を持とうとしない
- 漠然とした不安や焦燥感が強く、落ち着かない様子がある
- 死について繰り返し口にする
- 幻覚や妄想のような言動がある
これらのサインは、専門的な治療やサポートが必要な状態を示唆している可能性があります。本人が相談を拒否する場合でも、かかりつけ医や地域包括支援センター、あるいは家族だけで精神保健福祉センターなどに相談し、今後の対応についてアドバイスを求めることができます。
まとめ:親のペースに寄り添い、根気強くサポートを
高齢の親が専門家への相談をためらうのは、様々な背景があるためです。まずはその気持ちを理解し、受け止めることから始めましょう。直接的な「病院へ行こう」という声かけが難しければ、かかりつけ医への相談や地域包括支援センターの利用、悩み相談といった別の切り口でアプローチしてみるのも有効です。
大切なのは、親御さんのペースに寄り添い、焦らず根気強く関わりを続けることです。家族自身も孤立せず、利用できる相談窓口や専門機関からのサポートを受けながら、親御さんの心の晴れ間を取り戻すお手伝いができれば幸いです。この記事が、離れて暮らす親御さんの心の健康を心配するご家族の一助となれば嬉しく思います。
この記事は、一般的な情報提供を目的としており、特定の症状の診断や治療を推奨するものではありません。個別の状況については、専門家にご相談ください。