離れて暮らす親の「お金の管理がおかしい?」と感じたら 隠れた心のサインと家族ができること
離れて暮らす親の金銭管理の変化、それ、もしかして心のサインかもしれません
遠方に住む高齢の親御さんのことが、日頃から気にかかっている方もいらっしゃるかと思います。電話やオンラインでの会話で、体の調子や暮らしぶりに大きな変化がないか確認していても、直接会う機会が少ないと、見えない部分での変化に気づきにくいものです。
特に、親御さんの「お金の管理」に関するちょっとした変化は、単なる高齢によるものと片付けてしまいがちですが、実は心の健康状態を示す大切なサインである場合があります。認知機能の低下だけでなく、うつ病や不安障害など、メンタルヘルスの不調が金銭管理の困難さとして現れることがあるためです。
この記事では、離れて暮らす親御さんの金銭管理や経済状況に見られる心のサイン、考えられる原因、そして、それに気づいた家族がどのように対応し、どのようなサポートができるのかについて、具体的な情報をお伝えします。親御さんの変化に気づき、適切に対応するための一歩を踏み出すための参考にしていただければ幸いです。
※この記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。親御さんの状態についてご心配な場合は、必ず専門機関にご相談ください。
金銭管理や経済状況に見られる心のサインとは
離れて暮らす親御さんの金銭管理や経済状況において、「いつもと違うな」「おかしいな」と感じる変化は、以下のような形で現れることがあります。これらのサインが複数見られたり、以前にはなかった行動が続く場合は、心の状態に変化が起きている可能性を考えてみる必要があるかもしれません。
- 不必要な買い物が増える、同じものを繰り返し買う 以前は堅実だったのに、必要ないと思われるものを頻繁に購入したり、すでに持っているものを忘れて同じものを何度も買ってしまったりする様子が見られます。
- 請求書や公共料金の支払いが滞る、督促状が届く 期日までに支払いができなかったり、大量の未開封の請求書が溜まっていたりすることがあります。
- お金に関する手続きが難しくなる ATMの操作を間違えたり、暗証番号を忘れたり、銀行口座の管理や振り込みに困惑する様子が見られます。インターネットバンキングの利用なども急に難しくなることがあります。
- お金に関する不安を過度に口にする、あるいは逆に無頓着になる 急に「お金がなくなるのが怖い」といった強い不安を訴えたり、反対に、以前は気にしていた家計のことに対して無関心になったりします。
- 親しい人や見知らぬ人に多額のお金を渡そうとする、あるいはすでに渡してしまった 特殊詐欺の被害に遭いやすくなったり、頼まれると断れずに身内や知人にお金を渡してしまったりすることがあります。
- お金に関する話を避ける、隠そうとする 家計や資産について聞かれると、話を逸らしたり、怒り出したりするなど、隠そうとする様子が見られます。
- 以前は計画的だったのに、衝動的な散財や不計画な支出が増える 以前はきちんと家計簿をつけていたり、計画的にお金を使っていたにも関わらず、衝動的な買い物をしたり、目的もなくお金を使ってしまったりします。
なぜ金銭管理の変化が心のサインとなりうるのか?考えられる原因
金銭管理は、記憶力、判断力、計算力、集中力、そして将来を見通す力など、様々な認知機能や心理状態が連携して行われる複雑な行為です。そのため、これらの機能や状態に変化が生じると、金銭管理に支障が出やすくなります。
- 認知機能の低下: アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の初期症状として、物忘れや判断力の低下が現れます。これらは、請求書の支払いを忘れる、お金の計算ができなくなる、詐欺を見抜けないといった形で金銭管理に影響を及ぼします。
- うつ病: 高齢者のうつ病は、気分の落ち込みだけでなく、意欲の低下、集中力の欠如、判断力の鈍化として現れることがあります。これにより、お金の管理がおっくうになったり、衝動的な行動が増えたりすることが考えられます。
- 不安障害: 経済的なことに対する過度な心配や、将来への不安が強まることで、お金を溜め込むことに固執したり、逆に不安から衝動的な散財をしたりすることもあります。
- 孤独感・社会的孤立: 社会とのつながりが希薄になると、孤立感から寂しさを紛らわすために不必要な買い物を繰り返したり、詐欺のターゲットになりやすくなったりすることがあります。
- 身体の不調や病気: 慢性的な痛みや疾患、服薬による影響などで、気力がなくなり、これまでできていたお金の管理がおろそかになってしまうこともあります。
親の金銭管理の変化に気づいたら 家族ができること
親御さんの金銭管理の変化に気づいたとき、どのように対応すれば良いのでしょうか。焦らず、根気強く、親御さんの気持ちに寄り添いながら進めることが大切です。
変化に気づくためのコミュニケーション
離れて暮らしていても、日頃からのコミュニケーションの中に、金銭管理に関する変化の兆候を探るヒントがあります。
- 電話やオンラインでの会話: 「最近、何か困っていることはない?」「何か支払いで難しいことはない?」など、直接的すぎず、親御さんの生活全般の困りごとを聞き出すように優しく尋ねてみましょう。 「最近、こんな詐欺のニュースがあったけど大丈夫?」など、一般的な話題として切り出すことも一つの方法です。
- 帰省や訪問時: さりげなく郵便受けを確認したり、テーブルの上に請求書などが散乱していないか見たりすることも、状況把握に役立ちます。通帳や印鑑の保管場所、家の鍵の管理などについても、日頃から話しておくことが大切です。
具体的な声かけと接し方
- 責めたり、頭ごなしに否定したりしない: 「どうしてこんなことしたの!」と感情的に問い詰めるのではなく、「最近、〇〇について少し心配しているの」と、心配している気持ちを伝えましょう。
- 親のペースを尊重する: すぐにすべての状況を把握しようとせず、親御さんの話をじっくり聞く姿勢を示しましょう。話したくない場合は無理強いせず、時間をおいて再度試みたり、他の家族に相談したりすることも考えましょう。
- 具体的なサポートを提案する: 「一緒に請求書を確認しようか?」「振り込み、代わりにやろうか?」など、具体的なお手伝いを提案してみましょう。ただし、一方的に決めつけるのではなく、親御さんの意向を尊重することが重要です。
安全確保と対策の検討
変化が見られた場合は、まずは親御さんの財産が失われるリスクを避けるための対策を検討する必要があります。
- 高額な契約や多額の引き出しについて話を聞く: 不審な勧誘や契約などについて、具体的に話を聞き、被害に遭っていないか確認しましょう。
- 必要に応じて専門機関への相談を検討する: 金銭的な被害がすでに発生している場合や、今後発生するリスクが高い場合は、早めに専門機関に相談することが大切です。
- 財産管理や身上監護に関する制度の情報収集: 親御さんの判断能力が低下している場合、成年後見制度など、親御さんの財産や権利を守るための公的な制度について情報収集を始めましょう。
専門家への相談を検討するタイミングと窓口
親御さんの金銭管理の変化が、単なるうっかりミスではなく、認知機能やメンタルヘルスの問題から来ている可能性が疑われる場合や、家族だけでの対応が難しいと感じる場合は、専門家への相談を検討しましょう。
どのような状況で相談を検討すべきか
- 金銭的な被害(詐欺など)が繰り返し発生している、またはそのリスクが高い。
- お金の管理が全くできなくなり、日常生活に支障が出ている。
- うつ病や認知症などの症状が疑われる。
- 家族がどのように対応して良いか分からない。
- 親御さんが家族のサポートを受け入れない。
具体的な相談先
- 地域包括支援センター: 高齢者の総合相談窓口です。親御さんの心身の状態や生活全般に関する相談ができ、適切なサービスや関係機関につなげてくれます。まずはここに相談してみるのが良いでしょう。
- 市区町村の高齢福祉課: 地域の高齢者向けのサービスや制度に関する情報提供、相談に応じてくれます。
- かかりつけ医: 親御さんの身体的な健康状態を把握しているかかりつけ医に相談し、身体疾患や服薬の影響がないか確認してもらったり、専門医(精神科医、神経内科医など)への紹介を依頼したりすることができます。
- 精神科医、心療内科医: うつ病や不安障害など、精神的な不調が疑われる場合に相談します。適切な診断と治療につながります。
- 消費生活センター: 悪徳商法や詐欺などの消費者トラブルに関する相談窓口です。具体的な被害について相談できます。
- 弁護士、司法書士: 成年後見制度の利用や、相続、財産管理など、法律的な問題について相談できます。
家族が知っておきたいこと・心構え
親御さんの金銭管理の問題は、家族にとっても大きな精神的負担となることがあります。一人で抱え込まず、家族や専門機関のサポートを積極的に活用することが大切です。
- 他の家族と情報共有し、連携する: 兄弟姉妹など、他の家族とも状況を共有し、協力して対応にあたりましょう。一人で抱え込むと、心身ともに疲弊してしまいます。
- 完璧を目指さない: すべての問題を一度に解決しようとせず、できることから少しずつ進めていきましょう。親御さんの気持ちを尊重しながら、焦らず対応することが大切です。
- 親の尊厳を守る配慮: お金の管理ができなくなることは、ご本人にとって非常にプライベートでデリケートな問題です。プライドを傷つけないよう、言葉遣いや接し方には十分配慮しましょう。
- 家族自身のメンタルヘルスも大切に: 親御さんのサポートは長期にわたることがあります。家族自身のストレスや不安にも気づき、必要であれば自分自身も相談機関を利用するなど、心身の健康を保つように努めましょう。
まとめ
離れて暮らす高齢の親御さんの金銭管理や経済状況の変化は、単なる老化だけでなく、認知機能の低下やうつ病などの心のサインとして現れることがあります。不必要な買い物の増加、支払いの滞り、お金に関する不安などは、見逃せない重要なサインです。
これらの変化に気づいたら、まずは焦らず、親御さんの気持ちに寄り添いながら優しく声をかけ、困っていることがないか聞き出してみましょう。そして、家族だけで抱え込まず、地域包括支援センターや市区町村の窓口、かかりつけ医、精神科医、消費生活センターなどの専門機関に相談することをためらわないでください。
親御さんの尊厳を守りながら、様々なサポートを活用し、家族で協力して対応していくことが大切です。この記事が、親御さんの変化に気づき、次の一歩を踏み出すためのヒントとなれば幸いです。