離れて暮らす親の部屋が汚れてきたら?隠れた心のサインと家族の対応
離れて暮らす高齢の親のことが心配になることは、少なくないでしょう。電話での会話や時折の帰省で元気そうな様子を確認できても、見えないところで何かが起きているのではないかと、漠然とした不安を感じることもあるかもしれません。
特に、久しぶりに実家に帰省した際に、以前は綺麗好きだった親の部屋が散らかっていたり、物が溜め込まれていたりするのを見て、驚きや戸惑いを感じた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。部屋の状態の変化は、単なる「片付けが苦手になった」ということだけでなく、心の状態や体の状態の変化を示すサインである可能性があります。
この記事では、離れて暮らす親の部屋の状態の変化が示す可能性のある心のサインと、それに気づいたご家族ができることについてお伝えします。
なぜ高齢になると部屋の状態が変わりやすいのか
高齢になり部屋の片付けや整理整頓が難しくなる背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、加齢に伴う身体的な変化があります。以前のように体を動かすのが億劫になったり、細かい作業が難しくなったりすることで、片付けそのものが負担になることがあります。また、視力や聴力の衰えも、物の置き場所を把握したり、周囲の状況を適切に判断したりすることを難しくする場合があります。
次に、認知機能の変化です。認知機能が低下すると、物事を計画したり、順序立てて実行したりすることが難しくなります。片付けの手順が分からなくなったり、物を捨てられずに溜め込んでしまったりすることがあります。また、判断力の低下により、部屋が汚れていく状況や、それが引き起こす危険(例えば、物が散乱していて転倒しやすい、古い食品を食べてしまうなど)に気づきにくくなることもあります。
そして、心の状態の変化も大きく影響します。意欲の低下、抑うつ、不安などが原因で、身の回りのことに関心が持てなくなり、片付ける気力が失われることがあります。孤独感や社会的孤立を感じている場合も、外部との関わりが減ることで、部屋を綺麗に保つモチベーションが失われやすいと言われています。
部屋の状態の変化が示す可能性のある心のサイン
離れて暮らす親の部屋の状態が以前と比べて変化している場合、それは以下のような心のサインを示している可能性があります。
- 意欲の低下・抑うつ:
- 以前は片付けが好きだったのに、全くしなくなった。
- 部屋全体が散らかっている、ホコリが溜まっている。
- ゴミが溜め込まれている。
- 身の回りのことに関心がなくなり、着替えや入浴も億劫になっている様子がある。 これは、気分の落ち込みや興味・関心の喪失を伴う抑うつ状態のサインかもしれません。
- 認知機能の低下(判断力・実行機能の低下):
- 物の分類や整理ができない。
- 必要な物と不要な物の区別がつかない(物を溜め込む)。
- 片付けの手順が分からず、どこから手をつけて良いか分からない。
- 消費期限が切れた食品をそのままにしている。
- 火の元や暖房器具の消し忘れなど、危険な状況になっていることがある。 これは、認知症などによる判断力や計画・実行する能力の低下が影響している可能性があります。
- 引きこもり・社会的孤立:
- ほとんど家から出なくなり、人との交流が極端に減った。
- 部屋の中で過ごす時間が圧倒的に増え、外の世界との関心を失っている。 孤独感や人との関わりの希薄さが、部屋の状態に関心がなくなる一因となっていることがあります。
もちろん、これらのサインは複数の要因が絡み合っていることも多いです。重要なのは、「以前と比べて明らかに変化している」という点に気づき、その背景にどのような要因があるのかを注意深く見守ることです。
ご家族ができること:気づき方と声かけのヒント
離れて暮らしている場合、親御さんの部屋の状況を常に把握することは難しいかもしれません。しかし、以下のような点に注意することで、変化に気づくヒントを得られることがあります。
- 帰省時の観察:
- 部屋全体の状態(散らかり具合、ホコリ、悪臭など)を注意深く見てみましょう。
- 冷蔵庫の中や食品庫など、食品の管理状態を確認してみましょう。
- 新聞や郵便物が溜まっていないか確認しましょう。
- 以前との違いを具体的に把握しようと意識してみてください。
- 電話やオンラインでの会話:
- 直接的に部屋の状況を聞くのは難しいかもしれませんが、「最近何か変わったことはある?」「体調はどう?」など、さりげなく普段の生活の様子を尋ねてみましょう。
- 会話の中で、意欲がなさそう、同じ話を繰り返す、など、他のサインがないか注意深く聞きましょう。
- ビデオ通話ができる場合は、背景に映る部屋の様子からヒントが得られることもあります。
- 地域との連携:
- 親御さんが利用している地域のサービス(ヘルパー、デイサービスなど)や、民生委員、近所の方とのつながりがあれば、普段の様子について情報を共有してもらうことも有効です。
もし部屋の状態の変化に気づいたら、どのように声をかけたら良いでしょうか。頭ごなしに「どうして片付けないの!」「汚いじゃない!」などと責めるような声かけは、親御さんの心を傷つけ、かえって心を閉ざしてしまう可能性があります。
- 共感と理解を示す:
- 「〇〇(親御さんの名前)の部屋、少し散らかってきたみたいだけど、何か大変なことでもある?」と、心配している気持ちを伝えつつ、何か困難を抱えているのではないかと寄り添う姿勢を示しましょう。
- 「片付けるの、疲れるときもあるよね」と、大変さを理解する言葉を添えるのも良いかもしれません。
- 具体的な手助けを提案する:
- 「一緒に片付けてみない?」「私も手伝うから、少しずつやってみようよ」と、具体的な協力を申し出ましょう。
- 一度に全てを片付けようとせず、小さな範囲から始めることを提案するなど、ハードルを下げる工夫も大切です。
- サービス利用の検討を提案する:
- 片付け代行サービスや、自治体のゴミ回収サービス、福祉サービス(ヘルパーによる掃除支援など)があることを伝え、「こういうサービスもあるみたいだけど、どうかな?」と、選択肢の一つとして優しく提案してみましょう。
大切なのは、親御さんの尊厳を傷つけずに、なぜ部屋の状態が変化したのか、その背景にあるものを理解しようと努め、焦らず、根気強く向き合うことです。
専門家への相談を検討するタイミング
部屋の状態の変化に加えて、意欲の低下が著しい、会話がかみ合わない、同じ話を繰り返す、金銭管理がおかしい、などの他の変化も見られる場合は、専門家への相談を検討するサインかもしれません。
どこに相談すれば良いか迷う場合は、まずはお住まいの地域包括支援センターに連絡してみるのがおすすめです。地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを地域でサポートするための総合相談窓口です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネージャーなどの専門職が配置されており、無料で相談に乗ってくれます。親御さんの状況を説明し、どのような支援が必要か、どのような専門機関につなげてもらえるかなどのアドバイスを受けることができます。
また、明らかに気分が落ち込んでいる様子が見られる、不安感が強い、眠れないといった精神的な不調が疑われる場合は、かかりつけ医に相談するか、精神科や心療内科を受診することも選択肢の一つです。認知機能の低下が心配な場合は、かかりつけ医や物忘れ外来などを受診することも検討できます。専門家による適切な評価や診断、アドバイスを受けることで、状況が改善に向かう可能性があります。
家族自身のケアも大切に
離れて暮らす親御さんの変化に気づき、サポートしようとすることは、ご家族にとっても大きな負担となることがあります。特に、親御さんが変化を受け入れようとしない場合や、サポートを拒否されるような場合は、精神的な疲労を感じやすいかもしれません。
ご自身一人で抱え込まず、きょうだいや他の家族と連携したり、地域包括支援センターの担当者やケアマネージャーに相談したりするなど、周りのサポートも積極的に活用してください。また、ご自身の休息時間やストレス解消の方法も大切にし、心身の健康を保つことを忘れないでください。
まとめ
離れて暮らす高齢の親の部屋の状態の変化は、加齢による身体的な衰えだけでなく、意欲の低下、抑うつ、認知機能の低下といった心のサインである可能性があります。その変化に気づくためには、帰省時の観察や、電話・オンラインでの会話、地域のサービスや関係者との連携がヒントになります。
もし変化に気づいたら、頭ごなしに責めるのではなく、共感と理解を示し、具体的な手助けを提案するなど、親御さんの気持ちに寄り添った声かけを心がけましょう。部屋の状態の変化に加えて他のサインも見られる場合は、一人で悩まず、地域包括支援センターなどの専門機関に相談することが重要です。
親御さんの変化と向き合うことは簡単なことではありませんが、焦らず、専門家の力も借りながら、できることから少しずつ進めていくことが、親御さんにとってもご家族にとってもより良い道につながるでしょう。