離れて暮らす親が「大丈夫」を繰り返すようになったら?隠れた心のサインと家族の気づき方
離れて暮らす高齢の親から、電話やオンライン通話で「何も問題ないよ」「大丈夫だよ」という言葉を聞くたびに、少し安心する一方で、もしかしたら何か隠しているのではないかと不安を感じることはありませんか。特に、以前はもう少し素直に困りごとを話してくれた親が、最近は決まって「大丈夫」で済ませるようになった、と感じる場合、その背景には様々な心の変化が隠れている可能性があります。
親が高齢になると、体力の衰えや病気、人間関係の変化、将来への不安など、様々な心身の負担を抱えることが増えます。そうした状況下で、「大丈夫」と繰り返すのは、必ずしも本当に問題がないからではなく、家族に心配をかけたくない、弱みを見せたくない、あるいは自身の変化を受け入れきれていないといった、複雑な心理が働いているのかもしれません。
この記事では、離れて暮らす高齢の親が「大丈夫」の言葉の裏に隠しているかもしれない心のサインにどのように気づくか、そして家族としてどのように接し、サポートしていくことができるかについてご紹介します。
親が「大丈夫」を繰り返す背景にある可能性
高齢の親が「大丈夫」や「何も問題ない」と繰り返す背景には、いくつかの可能性が考えられます。
- 家族に心配をかけたくない気持ち: 遠方に住む子供たちが忙しくしていることを理解しており、これ以上負担をかけたくないという親心から、本当の状況を隠してしまうことがあります。
- 弱みを見せることへの抵抗: 年齢を重ねることで生じる変化や困難を認めたくない、自立していた自分というイメージを保ちたいというプライドから、弱音を吐くことを避ける場合があります。
- 変化の受け入れ難さ: 自分自身の心身の変化を十分に理解・受容できておらず、その戸惑いや不安をうまく言葉にできないために「大丈夫」と表現するしかない、という状況も考えられます。
- 軽度な認知機能の変化: 具体的に状況を説明することが難しくなったり、問題として認識しきれなかったりするため、「大丈夫」という包括的な言葉で済ませてしまうことがあります。
- うつ病などのメンタルヘルスの不調: 意欲の低下や気分の落ち込みから、状況を改善しようという気持ちになれず、あるいは状況を伝える気力がないために、表面的な「大丈夫」という言葉で済ませてしまうこともあります。
これらの背景を理解することは、親の言葉の真意を探る上で重要な第一歩となります。
「大丈夫」の裏に隠れた心のサインに気づくには
親の「大丈夫」という言葉だけで判断せず、他の側面にも注意深く目を向けることが、隠れた心のサインに気づくための鍵となります。離れて暮らしていても気づくことができるサインをいくつかご紹介します。
- 会話の質や内容の変化: 電話やオンライン通話での声のトーンが以前より暗い、覇気がないと感じる、話がどこか抽象的で具体的な状況が見えにくい、特定の話題(趣味や友人関係など)を避けるようになった、などの変化に気づくことがあります。
- 趣味や活動への関心の低下: 以前は楽しみにしていた趣味や友人との交流について話さなくなった、という変化は、意欲や関心の低下を示唆している可能性があります。
- 身体的な不調の訴え方の変化: 明らかに体調が悪そうに見えるのに「大丈夫」と言い張る、具体的な症状を詳しく話さなくなった、といった態度は、我慢や諦めのサインかもしれません。
- 日常生活の変化: 短い帰省や訪問の際に、家の片付けが行き届かなくなった、食事の内容が偏っている、身だしなみに以前より無頓着になった、といった変化に気づくことがあります。これらは体力や意欲の低下、あるいは認知機能の変化のサインである可能性があります。
- 以前より「頑張っている」様子: 妙に張り切って「掃除は完璧にしている」「何でも自分でできる」などとアピールする様子は、自身の変化に対する不安や、家族に心配をかけまいとする過度な努力の表れかもしれません。
これらのサインは、単独で見られることもあれば、複数組み合わさって現れることもあります。すぐに結論を出すのではなく、普段の親の様子と比較して、「いつもと違うな」と感じる点がないか、注意深く見守ることが大切です。
家族ができる気づき方と声かけのポイント
離れて暮らす家族ができることは、定期的なコミュニケーションを通じて親の様子を観察し、変化に気づく努力をすることです。
- 定期的なコミュニケーション: 電話やオンライン通話を定期的に行い、声の調子や表情、会話の内容に変化がないか注意深く聞きましょう。短い時間でも良いので、頻繁に連絡を取ることが変化に気づく機会を増やします。
- オープンな質問: 「大丈夫?」と聞くだけでなく、「今日はどんな一日だった?」「最近楽しかったことはある?」など、具体的な状況や気持ちを聞き出すようなオープンな質問をしてみましょう。
- 共感と受容の姿勢: 親が何か不調や不安を話してくれた際は、「心配だよ」「話してくれてありがとう」といった言葉で、親の気持ちに寄り添い、話してくれたこと自体を労う姿勢を示しましょう。否定したり、「そんなことないよ」と軽く流したりすることは避けましょう。
- 具体的なサポートの提案: 「大丈夫だよ」と言う親に対して、「何か困ったことはない?」と漠然と聞くよりは、「買い物で重いものを持つのが大変じゃない?」「病院に行くとき送迎が必要なら言ってね」など、具体的な困りごとを想定したサポートを提案してみましょう。
- 「記録」をつけてみる: いつ、どのような会話をしたか、親の様子はどうだったかなどを簡単に記録しておくと、後から見返した際に変化に気づきやすくなることがあります。
専門家への相談を検討する目安
いくつかのサインが見られたり、親の状態が心配になったりした場合、家族だけで抱え込まず、専門家への相談を検討することも重要です。特に以下のような場合は、早期の相談を検討することをおすすめします。
- 「大丈夫」という言葉とは裏腹に、明らかな心身の不調が見られる場合
- 日常生活(食事、睡眠、清潔保持など)に支障が出ていると考えられる場合
- 以前と比較して、意欲や気分の落ち込みが顕著で、それが長く続いている場合
- 物忘れがひどくなったり、判断力が低下している兆候が見られる場合
- 家族からの声かけやサポートが効果がなく、状態が悪化しているように見える場合
どこに相談すれば良いか
高齢者のメンタルヘルスや生活に関する相談先はいくつかあります。
- 地域包括支援センター: 高齢者の総合相談窓口です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが連携し、様々な相談に対応してくれます。まずはここに相談してみるのが良いでしょう。親の状況を伝え、どのような支援が利用できるか、どこに相談すべきかアドバイスをもらえます。
- かかりつけ医: 親の身体状況を把握しているかかりつけ医に相談するのも良い方法です。体調不良の訴えの背景にメンタルヘルスの問題がないかなど、医学的な視点からのアドバイスや、専門医への紹介を受けることができます。
- 精神科・心療内科: 意欲の低下や気分の落ち込みが続くなど、うつ病などの精神疾患が疑われる場合は、精神科や心療内科の受診を検討します。受診を嫌がる親に対して、家族がどのように促すかなども相談できます。
- 自治体の相談窓口: 高齢福祉課や保健センターなど、自治体によっては高齢者向けの専門相談窓口を設けている場合があります。
家族自身のケアも大切に
親のメンタルヘルスの変化は、離れて暮らす家族にとっても大きな心配事となります。不安や負担を感じたときは、一人で抱え込まず、他の家族と協力したり、友人や地域の相談窓口に話を聞いてもらったりするなど、自身の心身の健康も大切にしてください。家族が心身ともに健康でいることが、親をサポートするための基盤となります。
まとめ
離れて暮らす高齢の親が「大丈夫」と繰り返すようになったら、その言葉を鵜呑みにせず、背景にある可能性や隠れた心のサインに注意深く目を向けてみましょう。定期的なコミュニケーションを通じて変化に気づき、親の気持ちに寄り添った声かけを心がけることが大切です。もし、明らかなサインが見られたり、状態が心配になったりした場合は、一人で抱え込まず、地域包括支援センターなど専門機関に相談することを検討してください。焦らず、親のペースに寄り添いながら、適切なサポートを続けていくことが、親と家族双方の安心につながります。