離れて暮らす親が感謝の言葉を避けるようになったら?背景にある心のサインと家族の対応
離れて暮らす高齢の親御さんに対し、日頃の感謝や気遣いの言葉を伝えているのに、以前のように素直に受け取ってもらえなくなった、あるいは感謝の言葉を返してくれなくなった、と感じたことはありませんか。
こうした変化は、単なる照れや遠慮からくるものかもしれません。しかし、心の状態が変化しているサインである可能性も考えられます。特に、これまでの親御さんの様子と比べて「いつもと違う」と感じる場合は、その背景にある心理に目を向けることが大切です。
この記事では、離れて暮らす親御さんが感謝やねぎらいの言葉を避けがちになった際に考えられる背景や、家族として気づきたい心のサイン、そして具体的な声かけやサポートの方法についてご紹介します。
感謝やねぎらいの言葉を避けるようになった親のサインとは
離れて暮らしている場合、親御さんの日々の様子を詳しく把握することは難しいかもしれません。しかし、電話やオンラインでの会話、短い帰省の際に、これまでの関係性から「いつもと違うな」と感じる変化が見られることがあります。
感謝やねぎらいの言葉を避けるようになった際に、合わせて見られることがあるサインとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 「そんなこといいのよ」「何もしていないから」といった、過度な謙遜や自己否定的な言葉が増えた
- 何かをしてもらった際に、素直に「ありがとう」を言わなくなった、あるいは言う回数が減った
- 「迷惑をかけているんじゃないか」「申し訳ない」といった負い目を感じるような発言が多くなった
- 以前は楽しそうに話していた趣味や活動の話をしなくなったり、「自分にはもう無理だ」といった発言が増えたりした
- 自信なさげな様子が見られるようになった
- 表情が乏しくなったり、元気がない様子が見られたりする
これらのサインが複数見られたり、以前と比べて顕著になったりしている場合は、単なる性格の変化ではなく、心の状態に何らかの変化が起きている可能性を考える必要があります。
感謝やねぎらいを避けがちになる背景にあるもの
高齢期に入ると、心や体の変化、生活環境の変化など、様々な要因から気持ちが落ち込んだり、自信を失ったりすることがあります。感謝やねぎらいを素直に受け取れなくなる背景には、以下のような心理や状態が隠れていることが考えられます。
- 自己肯定感の低下: 退職や身体機能の衰えなどにより、社会的な役割や「役に立っている」という感覚が薄れ、自分自身を価値がない存在だと感じてしまうことがあります。その結果、人からの肯定的な評価(感謝やねぎらい)を素直に受け止められなくなります。
- 負い目や遠慮: 子供や周囲に「迷惑をかけている」「世話になっている」と感じる負い目から、感謝を受け取ることに抵抗を感じたり、「これくらいで感謝されるなんて」と自分を卑下したりすることがあります。
- 精神的な不調: うつ病などの精神疾患の兆候として、喜びや感謝を感じにくくなったり、自己否定的な考えが強まったりすることがあります。
- 認知機能の低下: 認知症の初期症状や軽度認知障害の場合、感情のコントロールが難しくなったり、以前のようにスムーズなコミュニケーションが取れなくなったりすることがあります。また、感謝されたこと自体を認識しにくくなる場合もあります。
- 体調不良: 慢性の痛みや体の不調が続くと、気持ちが落ち込みやすくなり、前向きな感情や他者への感謝を感じにくくなることがあります。
これらの背景を理解することは、親御さんの変化を受け止め、適切に対応するための第一歩となります。
家族としてできること:声かけと接し方のヒント
親御さんが感謝やねぎらいの言葉を避けがちになった場合、どのように接すれば良いのでしょうか。遠方に暮らしている場合でもできる、声かけや具体的な接し方のヒントをご紹介します。
1. 変化に気づいていることを優しく伝える
「最近、何かしても気にしすぎちゃうみたいだけど、何かあったの?」 「前はもっと素直に『ありがとう』って言ってくれてたから、ちょっと心配になったんだ」
このように、責めるのではなく、親御さんの変化に気づき、心配している気持ちを伝えることで、親御さんも話しやすくなることがあります。ただし、強く問い詰めたり、原因を決めつけたりするのは避けましょう。
2. 親御さんの気持ちを尊重する
感謝やねぎらいを素直に受け取らない場合でも、無理に受け取らせようとせず、親御さんのペースや気持ちを尊重することが大切です。
「受け取りにくいなら無理しなくてもいいよ。でも、これは私(たち)の気持ちだから」
というように伝え、一方的に押し付けるのではなく、寄り添う姿勢を見せましょう。
3. 具体的な行動への感謝を伝える
漠然とした感謝の言葉よりも、具体的な行動への感謝を伝える方が、親御さんは受け止めやすい場合があります。
「この前、〇〇のことで電話してくれた時、本当に助かったよ。ありがとう」 「送った〇〇、美味しく食べてもらえて嬉しいな」
具体的に伝えることで、親御さんの行動が役に立っていること、子供が喜んでいることが伝わりやすくなります。
4. 親御さんが貢献できる小さな機会を作る
親御さんが「自分は何もできていない」と感じている場合、何か貢献できる機会を作ることで、自己肯定感を高める手助けになります。
「この間、〇〇のレシピ教えてもらったの、すごく参考になったよ。ありがとう」 「〇〇について、お父さん(お母さん)に聞いてみたいことがあるんだけど…」
専門的な知識や経験、趣味など、親御さんの得意なことや興味のあることに関する話題を振ったり、小さなお願い事をしたりすることで、「自分もまだ役に立てることがある」という感覚を取り戻せるかもしれません。
5. 忙しい中でも連絡を欠かさない
感謝を伝えたり、ねぎらったりする機会を持つためにも、定期的な連絡は重要です。電話やオンライン通話で短い時間でも声を聞き、様子を伺う時間を作りましょう。話すことが難しそうであれば、「元気でいてくれてありがとうね」といった簡単なメッセージでも良いでしょう。
専門家への相談を検討するタイミングと相談先
親御さんの変化が一時的なものではなく、しばらく続いている場合や、他の気になるサイン(意欲低下、食欲不振、睡眠障害、過度な心配など)も合わせて見られる場合は、専門家への相談を検討することも重要です。家族だけで抱え込まず、専門家のサポートを受けることで、適切な対応が見つかることがあります。
相談を検討するタイミング
- 感謝を避けがちになっただけでなく、他のメンタルヘルスのサインが複数見られるようになった
- 気分の落ち込みが長く続いている様子がある
- 体調の不調を訴えることが増えたが、医療機関では特に問題が見つからない
- 日常生活に支障が出始めている(身だしなみを気にしない、家事が滞るなど)
- 家族の働きかけだけでは変化が見られない、あるいは悪化しているように感じる
主な相談先
- 地域包括支援センター: 高齢者の様々な相談に対応してくれる地域の総合相談窓口です。保健師や社会福祉士などがおり、専門機関への橋渡しなども行ってくれます。まずはここに相談してみるのも良いでしょう。
- かかりつけ医: 普段から親御さんの体の状態を把握しているかかりつけ医に相談するのも有効です。体の不調が心の状態に影響していることもありますし、精神的な問題についても相談できる場合があります。必要に応じて専門医を紹介してもらえます。
- 精神科・心療内科: 精神的な不調が疑われる場合は、精神科医や心療内科医の診察が有効です。予約が必要な場合が多いので、事前に確認しましょう。
- 役所の高齢者福祉課や保健センター: 高齢者の健康や福祉に関する相談を受け付けています。
- NPOや地域の相談窓口: 地域によっては、高齢者やその家族向けの相談窓口が設置されている場合があります。
親御さん自身が受診や相談に抵抗を感じる場合は、まずは家族だけで相談機関に連絡し、状況を説明してアドバイスをもらうことから始めても良いでしょう。「〇〇(親御さん)のこと、心配で…」と正直な気持ちを伝えてみてください。
まとめ:変化に気づき、寄り添うことから
離れて暮らす親御さんが、以前のように感謝やねぎらいを素直に受け止めなくなった、あるいは示さなくなったという変化は、高齢期における様々な心理的要因が影響している可能性があります。これは単なるわがままや性格の変化として片付けるのではなく、心のサインとして捉えることが大切です。
大切なのは、その変化に家族が気づき、親御さんの気持ちに寄り添おうとすることです。無理に以前の状態に戻そうとするのではなく、親御さんの今の気持ちを尊重しつつ、感謝やねぎらいを伝え続けたり、親御さんの自己肯定感を高めるような関わりを試みたりすることで、親子関係がより良い方向へ向かうことがあります。
そして、変化が気になる場合や、他のサインも同時に見られる場合は、一人で抱え込まず、地域の相談機関や専門家を頼りましょう。適切なサポートを受けることで、親御さんの心の健康維持につながり、家族自身の安心にもつながります。
この記事が、離れて暮らす親御さんの心の変化に気づき、どう関われば良いか悩んでいる方々にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。 ```