離れて暮らす親が体調について過度に心配したり、無理を隠したりするようになったら?隠れた心のサインと家族の対応
はじめに
離れて暮らす高齢の親御さんのことが心配になる機会は多いことと思います。特に、親御さんから電話やオンラインで体調の話を聞くたびに、どのように受け止め、どう対応すれば良いか悩む方もいらっしゃるかもしれません。
親御さんの体調に関する「言動」の変化は、単なる体の不調だけでなく、心の状態を反映している場合があります。これまでと様子が違うと感じたら、それは親御さんが何らかの心のサインを送っているのかもしれません。この記事では、親御さんの体調に関する言動の変化に隠された心のサインと、離れて暮らす家族ができる対応について考えます。
体調に関する言動に見られる具体的な変化のサイン
親御さんの体調に関する言動には、いくつかのパターンで心のサインが隠されていることがあります。以下のような変化が見られないか、日頃のコミュニケーションを振り返ってみてください。
過度に健康を心配し、些細な症状を頻繁に訴えるようになる
- 少しの体の変化(軽いめまい、関節の痛み、漠然としただるさなど)を大げさに心配する。
- 同じ症状について、電話するたびに繰り返し訴える。
- インターネットやテレビの情報に影響されやすく、自分も同じ病気ではないかと不安がる。
- 特定の病気を非常に恐れ、必要以上に検査や受診を繰り返す。
逆に、体調が悪そうなのに「大丈夫」と無理を隠すようになる
- 明らかに声に元気がなかったり、しんどそうに見えたりするのに、「何でもない」「大丈夫」と答える。
- 以前は話してくれた体調の話を、質問してもはぐらかすようになる。
- 病院に行くことを勧められても、「そのうち行く」「まだ大丈夫」と言って先延ばしにする。
- 体調が悪いことを隠して、普段通りの生活を送ろうと無理をする。
- 顔色や声のトーン、動きなどが以前より明らかに衰えているのに、本人からの体調に関する訴えが極端に少なくなる。
これらの言動の変化は、どちらも心の状態が影響している可能性があります。
これらの変化に隠されている可能性のある心のサイン
なぜ、親御さんの体調に関する言動にこのような変化が現れるのでしょうか。そこには様々な心の状態が関係していると考えられます。
過剰な心配の背景にある心のサイン
- 健康不安の増大: 加齢に伴い、自分の体の衰えや病気への不安が大きくなっている。
- 孤独感や役割の喪失: 誰かに話を聞いてほしい、かまってほしいという気持ちから、体調の訴えが増える。話し相手が少ない場合に顕著になることがあります。
- 将来への漠然とした不安: 将来への見通しが立たない、一人暮らしが不安といった気持ちが、具体的な体調への心配として現れる。
- 軽い抑うつや不安障害: 気分が落ち込む、何もかも不安に感じる、といった心の不調が、体の症状への過剰な心配につながることがあります。
無理を隠す背景にある心のサイン
- 家族に心配をかけたくない気持ち: 離れて暮らす家族に、自分のことで余計な負担をかけたくないという思いが強い。
- 弱みを見せたくない、自立へのこだわり: 元気な自分でいたい、頼りたくないという気持ちが強い。
- 意欲の低下: 体調が悪いと感じていても、病院に行く、人に話すといった行動を起こす気力が湧かない。これは抑うつ状態のサインかもしれません。
- 認知機能の変化: 自分の体調を正確に把握したり、変化を認識したりすることが難しくなっている可能性もゼロではありません。
これらの心のサインは一つだけでなく、複数が組み合わさっている場合もあります。
家族ができること:気づきと声かけのポイント
離れて暮らす家族が親御さんの体調に関する言動の変化に気づき、適切に対応するためには、日頃からのコミュニケーションが鍵となります。
体調に関する訴えへの向き合い方
- まずは傾聴する: 親御さんの体調の訴えを頭ごなしに否定したり、「気のせいだよ」と軽く流したりせず、まずはじっくりと話を聞いてあげてください。「そうなんだね」「それは辛いね」など、共感の姿勢を示すことが大切です。
- 冷静に状況を把握する: 親御さんの訴えを聞きながらも、客観的に状況を把握しようと努めます。話の内容に矛盾はないか、以前と比べて頻度や深刻さはどうか、他の家族や関わっている人はどう感じているか、などを考慮します。
- 「大丈夫?」だけでなく具体的に聞く: 「最近、どこか体の調子で気になることはある?」「前に話してた〇〇の具合はどう?」など、具体的に優しく問いかけることで、親御さんも話しやすくなることがあります。
無理を隠している場合の気づき方と声かけ
- 声のトーンや話す様子に注意を払う: 電話での声の張りや、オンラインでの表情、視線などをよく観察します。明らかに以前より元気がない、覇気がないといったサインを見逃さないようにします。
- 「無理してない?」と優しく問いかける: 「なんだか少し疲れてるみたいに見えるけど、無理してない?」「体調が良くない時は、休んでてもいいんだよ」など、親御さんが弱音を吐き出しやすいような声かけを試みます。
- 「心配だから」という気持ちを伝える: 親御さんが心配をかけたくないと思っている場合は、「心配だから、何かあったら教えてね」「困ったらいつでも相談してね」と伝えることで、安心感を与えることができます。
専門家への相談を提案する際の声かけ
変化が見られ、日常生活に支障が出ている場合や、明らかに体の不調が続いている、または心の状態が不安定に見える場合は、専門家への相談を視野に入れることが大切です。
- 「いつもと様子が違うみたいで心配だから、一度お医者さんに相談してみない?」「専門家に見てもらうことで、安心できることもあるかもしれないよ」など、親御さんを気遣う気持ちを伝えながら提案します。
- 「病気かどうかの診断を受けるというより、今の体調や気持ちについて、専門家の方に話を聞いてもらうだけでも違うかもしれないよ」など、相談へのハードルを下げるような言葉を選ぶのも良いでしょう。
専門家への相談も視野に入れる
親御さんの体調に関する言動の変化が続き、ご家族だけで対応するのが難しいと感じたり、日常生活に支障が出ているようであれば、専門家への相談を検討しましょう。
どのような場合に相談を検討するか
- 体調に関する訴えが非常に頻繁で、ご本人が常に強い不安を感じている様子が見られる場合。
- 医療機関を何度も受診しているにも関わらず、不安が解消されない場合。
- 明らかに体調が悪そうなのに、病院に行こうとしない、病気を隠そうとする場合。
- 体調の変化とともに、食欲不振、睡眠障害、活動性の低下、興味の喪失、イライラ、悲観的な言動など、抑うつ状態や不安症状が疑われるサインが見られる場合。
- ご家族だけでは、親御さんの体調や心の状態を適切に判断したり、必要なサポートを提供したりすることが難しいと感じる場合。
どこに相談できるか
- かかりつけ医: まずは普段から親御さんの体の状態を知っているかかりつけ医に相談してみるのが良いでしょう。体の不調からくるものなのか、精神的なものも影響している可能性があるのかなど、最初の判断に役立ちます。
- 地域包括支援センター: 高齢者の様々な相談を受け付けている地域の窓口です。保健師や社会福祉士などの専門家がおり、体調やメンタルヘルスの相談、利用できる福祉サービスなどについて情報提供や支援を行ってくれます。ご本人だけでなく、ご家族からの相談も可能です。
- 精神科・心療内科: 心の不調が強く疑われる場合は、精神科や心療内科の受診も選択肢となります。高齢者の心のケアに詳しい医師がいるか、事前に確認すると良いでしょう。
- 保健所・自治体の相談窓口: 保健所や自治体によっては、精神保健福祉に関する相談窓口を設けています。匿名で相談できる場合もあります。
ご家族だけで抱え込まず、第三者である専門家の視点や支援を得ることが、状況を改善させる重要な一歩となります。
家族として長期的にできるサポート
親御さんの体調に関する言動の変化に向き合い、心の健康をサポートするためには、日頃からの関わりや長期的な視点が大切です。
- 日頃からコミュニケーションを大切にする: 体調のことだけでなく、趣味や日常の些細な出来事など、様々な話題について話す時間を持ちましょう。親御さんが安心して話せる関係性を築くことが基盤となります。
- オンラインなどを活用し、顔を見て話す機会を作る: 電話だけでなく、ビデオ通話などを活用することで、表情や雰囲気からも親御さんの状態を把握しやすくなります。
- 体調や心の状態についてオープンに話せる関係性を築く: 「どこか辛いところはないか」「何か心配なことはないか」など、定期的に優しく問いかけ、親御さんが本音を話しやすい雰囲気を作ります。
- 必要に応じて、医療機関受診や福祉サービスの利用をサポートする: 受診の付き添いや、ケアマネジャーへの相談など、具体的な行動をサポートすることも有効です。
- 親御さんの活動や社会とのつながりを応援する: 適度な運動や趣味、地域活動への参加などを促し、孤立を防ぐことも心の健康維持に繋がります。
- ご家族自身も休息を取り、無理なくサポートを続ける: 親御さんの心配は大きな負担になり得ます。ご家族自身も息抜きや相談相手を見つけるなど、ご自身の心身の健康も大切にしながらサポートを続けましょう。
まとめ
離れて暮らす高齢の親御さんの体調に関する言動の変化は、単なる体の不調だけでなく、様々な心のサインを反映している可能性があります。過剰な心配や、逆に無理を隠すといった言動の背景には、不安や孤独、意欲の低下などが隠されているかもしれません。
これらの小さな変化に気づくためには、日頃からの丁寧なコミュニケーションが不可欠です。親御さんの話をじっくり聞き、共感しつつも冷静に状況を判断することが大切です。そして、ご家族だけで抱え込まず、必要に応じてかかりつけ医や地域包括支援センターなどの専門機関に相談することも重要な選択肢です。
親御さんの心の健康を支えることは、ご家族にとっても安心につながります。焦らず、根気強く、親御さんに寄り添いながら、必要なサポートを続けていきましょう。